大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和44(オ)321 判決

主 文

原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人安藤一郎の上告理由第一点について。

商法二六条は、営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合に、譲渡人の営業に

因つて生じた債務については譲受人もまたその弁済の責に任ずべき旨を定める規定

であつて、営業の現物出資を受けて設立された会社が、現物出資をした者の商号を

続用する場合に関する規定ではないが、営業を譲渡の目的とする場合と営業を現物

出資の目的とする場合とでは、その法律的性質を異にするとはいえ、その目的たる

営業の意味するところは全く同一に解されるだけでなく、いずれも法律行為による

営業の移転である点においては同じ範疇に属するのであつて、これを現物出資の目

的とした者の債権者からみた場合には、その出資者の商号が現物出資によつて設立

された会社によつて続用されているときは、営業の譲渡を受けた会社が譲渡人の商

号を続用している場合と同じく、出資の目的たる営業に含まれる出資者の自己に対

する債務もまた右会社がこれを引き受けたものと信頼するのが通常の事態と考えら

れるのである。したがつて、同条は、営業が現物出資の目的となつた場合にも類推

適用され、出資者の商号を続用する会社は、出資者の営業に因つて生じた債務につ

いては、その出資者とならんで弁済の責に任ずべきものと解するのが相当である。�

ところで、上告人らは、第一審以来、被上告会社は、訴外Dにおいて負担した本

件交通事故による損害賠償債務を承継したものである旨主張したのに対し、原審も

被上告会社が上告人らに対するD個人の債務を承継的に負担した事実の認められな

いことを理由にして上告人らの主張を排斥しているが、本件の弁論の経過に徴すれ

ば、上告人らの真意は、要するに、被上告会社は、会社の形態をとつてはいるが、

D個人がE組なる商号のもとに営業して来た運送業を株式会社E組なる商号(被上

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告会社は右の商号によつて設立されたが、本訴が第一審係属中の昭和四一年一月五

日にその商号をB運輸株式会社と変更し、そのころその旨の登記をしたことが、記

録中の被上告会社登記簿謄本に明らかである。)のもとに株式会社組織に改めたも

のにすぎず、会社設立後における営業の実体はDの個人経営の当時と全く異なると

ころがないから、被上告会社は本件損害賠償債務を負担すべきものであるとして、

その履行を求めるにあるのであつて、必ずしも、Dと被上告会社との間に債務の承

継について合意が成立したことを被上告会社の債務負担の原因として固執して主張

する趣旨ではないと解すべきである。しかして、営業の現物出資を受けて設立され

または営業の譲渡を受けた会社の商号がその出資者または譲渡人の商号に会社の種

類を付加したにとどまるものである場合においては、いまだ商号の同一性を失わな

いものと解すべく、また、営業上の不法行為によつて負担する債務は商法二六条の

「営業ニ困リテ生ジタル債務」に当たるものと解すべきである(最高裁判所昭和二

六年(オ)第六四八号、同二九年一〇月七日第一小法廷判決、民集八巻一〇号一七

九五頁参照)から、上告人らの主張にかかる事実関係のもとにおいては、原審とし

ては、商法二六条の適用を考慮すべきであつたといわなければならない。

しかるに、原審は、被上告会社は、Dがその経営にかかる運送業E組の営業をそ

つくりそのまま現物出資して設立された会社であることを前提とし、また、D個人

のE組なる商号とB運輸株式会社なる被上告会社の現在の商号との類似性にまで言

及しながら、商法二六条の適用を考慮せず、被上告会社が上告人らに対するD個人

の債務を承継した事実の認められないことのみを理由に上告人らの請求を排斥した

のであつて、原判決には、上告人らの主張を正解しなかつた結果審理不尽の違法を

おかしたか、あるいは、商法二六条の解釈適用を誤つた違法があるものというべき

であるから、論旨は結局理由があり、原判決は、他の論旨につき判断するまでもな

く、破棄を免れない。そして、本件については、さらに叙上の点につき審理を尽く

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す必要があるので、民訴法四〇七条に則り、これを原審に差し戻すのを相当と認め、

裁判官の全員一致で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 下 田 武 三

裁判官 岩 田 誠

裁判官 大 隅 健 一 郎

裁判官 藤 林 益 三

裁判官 岸 盛 一

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